NHKでショパンが流れたので、ショパンで母との思い出を一つ。
高校生の頃、突然思い立ったような母に連れられて、とある音楽教室の演奏発表会に行った。
無料で見れて、前座でプロのピアニストがショパンを弾くらしい。
会場に着いたのは上演時間ギリギリで、なのに優雅にゆっくり歩いて15分遅刻で入場したら、ちょうどそのピアニストが壇上に上がったところだった。
少し猫背で、自信なさげな、若い駆け出しのピアニストだった。
演奏は素人目に見ても一音一音が丁寧に響いて優しくて、未来ある若者に向ける発表会の場に相応しい素敵な演奏であった。
さあ、いよいよ子供達の演奏、小学校低学年くらいのピンクのドレスを着た女の子の演奏が始まった。
その時母は、おもむろに立ち上がると「行くよ」と小声で言った。
他の観客は誰も立ち上がらないし、なんなら演奏中だ。
流石にこの演奏終わるまでは…と思ったけど、上手く言えずにズンズン歩く母の後ろを腰を屈めながら会場を出た。
母は開口一番「プロって言うから来たけどパッとしないピアノだったね」と言った。
私は機嫌が悪かったので、「もっと胸張って入場して堂々とピアノ弾いたらそんなに悪くないはずだよ」と言った。
母はクラシックを沢山聴いて、沢山の本を読んで、何かを学んだのだろうか。
なんでこんなに厚顔無恥なマネができるんだろう。
とかその時はウダウダ考えていたけど、その後、母と行ったフルーツ屋さんのオシャレなランチは美味しかったので機嫌が治った。
遅刻しようが途中退席しようが堂々としていて、良いお店でもオレンジはナイフじゃなくて口で行く母。
綺麗で物悲しい感じのショパンより、ドーンって絶望感ある威風堂々なラフマニノフ(威風堂々なラフマニノフとは?)が似合うね。
いや、こうはなりたくないね。
反面教師。